2005年5月12日

「雁風呂」

拝読するばかりではと思い立ち、指先の訓練もかねて、本の拾い読みをメモしたものです。


 津軽の沿岸地方には「雁風呂」なる伝説があるそうです。秋の終わり頃、シベリアから越冬の為に日本に渡ってくる雁は、厳しい北の海を越える長旅に備え、飛び立つときに木の枝をくわえて渡るのだそうです。これは途中、疲れたら海上に浮かべ、その上に止まって休みながら飛び続けるためのもので、本州北端の当地にたどり着くと海岸にこの枝を置いて、それぞれの越冬地へ向かうのだそうです。
 そして春先、越冬を終えて北に帰る際には、来たときに置いた小枝を再びくわえて飛び立つのですが、不幸にして越冬先で猟や病気などで死んでしまった雁の数だけ小枝が海岸に残されるわけです。この地方では、これらの小枝を拾い集めて風呂を焚いて、故郷に帰れなかった哀れな雁たちのための供養をするとのことです。
 厳しい自然の中で暮らしている東北地方の人たちが、馴染み深い雁に例えて伝えた話で、「外ヶ浜の雁風呂」として残っているものの、当地では知る人も少ないようです。

 実際には雁が本当にこんなことをするとは思いませんが、この言葉は俳句の春の季語ともなっています。鍵になり竿になって渡る雁の「北帰行」は、哀れさを感じさせる鳴き声とも併せ、遅い北国の春を待つ心と、巡りくる自然への思いが感じられ、不帰の雁を偲んで、たてる「雁風呂」はなんとも情緒ある話と感心させられます。

 もし、こんな風呂が残っているようなら是非一度入ってみたいものです。残された哀れな小枝を集めて、五右衛門釜でこれを焚き、タオルを頭にのせ“ほや”を肴に「雁供養酒」はちょっと贅沢かな、雁には申し訳ないが。昔は日本全国で見られた雁も、温暖化のためなのか渡来の南限も北上しているとのこと。そう言えば、雁の文字がつく言葉には季節や地域を感じさせるものが多い。雁来紅、落雁、雁の腹摺り山、雁木、ガンモドキ?等々、どれをとっても、その思いに一言付け加えられそうなものばかりで、その読みが“がん”、“かり”いずれでも、その頃を知る人たちにとっては懐かしい響きとして残っているように思えます。

(2003年2月号コゲラ通信より)

カテゴリー: 野鳥のコラム 
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